長距離トラックドライバーにも関わる労働基準法の改正
労働者が安心して働くために定められている法律が労働基準法ですが、トラック運転手の場合は一般の労働者と異なる基準「自動車運転者の労働時間などの改善のための基準」が定められています。これを通称「改善基準」と呼びます。
長時間労働や過重労働の実態が多くあるトラックドライバーに関しては、環境改善のために一般労働者と差別化を図る必要があるのです。
長距離トラックドライバーの仕事内容に関しては以下の記事をご覧ください。
長距離トラックドライバーの仕事内容とは?未経験可の求人はある?
近年、ブラック企業の過酷な長期間労働によって労働者が肉体的にも精神的にも追い詰められる事例が話題になりました。これに対して政府は2017年3月に「働き方改革実行計画」を決定し、戦後70年ぶりの大改革とされる改正労働基準法が、全産業を対象に施行されました。
2019年の労働基準法の改定で年720時間を上限とした時間外労働の規制がスタートしました。一方で、荷待ち時間や道路の交通事情などの問題により対応が難しいドライバーには5年間の猶予が与えられて、2024年4月から年960時間を上限とした規則が施行されます。
労働基準法における改善基準
今回の改善基準で改正されたことは、「労働時間・拘束時間・休息時間の意義」「拘束時間の制限と休息時間の確保」「拘束時間・休息時間の特例」「運転時間の限度」「時間外・休日労働の限度」等です。
この改正は長時間労働や人手不足が問題となっているトラック運送業界にとって大きな影響があります。
特に長距離トラックドライバーは、顧客からの無理な要望や、長時間・長距離の運送や荷待ち荷下ろしなどの雑務が多くあり、業務形態は特殊です。労働基準法に改善基準を定めたことによって、長時間労働による疲労で事故が起きてしまったり、肉体的・精神的にも疲労したりすることを防ぐことが期待できます。
現在、長距離トラックドライバーの仕事がきつい、過酷と言われることが多い理由を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
近年の物流量の多さから、運送業の仕事は需要が高まっています。これによって、長距離トラックドライバーの労働条件は改善の傾向がみられます。しかし、改善基準を定める労働基準法に対する認識はまだまだ低いというのが現状です。
長距離トラックドライバーの労働時間・必要な休みを労働基準法に基づいて解説
労働基準法には、長距離トラックドライバーの拘束時間・労働時間・休息時間に関する法律や規定があります。
長距離トラックドライバーの拘束時間とは
まず、拘束時間とは運転時間+休憩時間等のことです。
厚生労働省が策定した改善基準「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によると、トラックドライバーの拘束時間は1日13時間が基本です。仕事によっては13時間では目的地までたどり着けないなどといった状況によっては上限が16時間となります。さらに、15時間以上の拘束は週に2回までという制限があります。
1ヵ月の拘束時間の上限は293時間までなので、年間にすると3,516時間ということになります。どこかの月で293時間を超えた場合は、その月以降で時間を減らして年間3,615時間以内になるように調整します。ちなみに拘束時間というのは、運動時間などの労働時間に休憩時間を含めた時間の合計のことです。
また、4時間ごとに30分以上の休憩をとるように定められています。4時間の間に30分を分割してこまめに休憩をとっても構いません。
拘束時間のうちに占める運転時間の基準は、2日間の平均が9時間と定められています。2日間合わせての拘束時間が26時間ですので、トラックを運転できる時間は18時間となり、残りの時間は休憩と雑務や仮眠にあてられます。
長距離トラックドライバーの休息時間とは
トラックドライバーには休憩時間のほかに休息期間についての基準があります。休息時間とは、拘束時間が終わってから次の仕事がスタートするまでの時間、すなわち仕事から離れたプライベートの時間のことです。
1日の休息期間は継続して8時間以上が必要と定められています。
片道で13時間を超える運搬を終えた場合などは、睡眠をとるなどしっかり休む必要があるので、長距離トラックドライバーにとっては必ず必要な休憩時間です。
長距離トラックドライバーの休日とは
休日に関する規定も定められています。長距離トラックドライバーは比較的休日出勤が多い仕事です。繁忙期には会社からの急な呼び出しに対応するために、自宅待機することもあるでしょう。
そのため改善基準による新たなルールとして、トラックドライバーの場合は休日出勤は2週間に1回までという規定ができました。過労による事故や健康問題を防ぐための規定なので企業はこれを遵守しなければなりません。
休日は基本的に「休息時間+24時間の連続した時間」となります。規定では、30時間を下回ってはならないことになっています。
仮に残業によって休日の24時間が削られたとしても、8時間以上の休息期間で補うというルールでドライバーの休日は守られます。とはいえ、長距離トラックドライバーの平均的な年間休日数は80日から100日と言われており、他の職種と比較して多くはないのが現状です。
長距離トラックドライバーは必要な休みが取れていない?
長距離トラックドライバーは必要な休みが取れないのでしょうか。平成27年の国土交通省が調査した時点では、トラック運転手の約1割は、1週間に1度も休みが取れていないという実態がありました。
しかし前述したように、改善基準により運転に支障が出たり心身を壊したりしてしまわないように新たな基準が定められました。特に長距離ドライバーは、拘束時間が長い一方で、体力と集中力が必要なので休みをしっかり取る必要があります。
それでも運送業には人手不足の問題があるため、2週間に1回は休日出勤をしなくてはならない場合があります。人員をローテーションで回している会社が多いので、欠員が出たときや急な発注が入ったときなどに物流を止めるわけにはいかないのです。
小型トラックのような定期便とは違い、長距離トラックの業務は常に運送業務を継続しなければならないことも多く、土日祝日など関係なく稼働しなければなりません。ローテーションで人員を回すとなると、土日祝日などは休日を取りにくいというのが現状です。
休みやすい長距離トラックドライバーの仕事の選び方
運送業界は慢性的な人手不足の問題があります。そのため猫の手でも借りたいほど困っている会社がたくさんあります。そんな中から、休みやすい長距離トラックドライバーの仕事につくには、求人情報から良い会社を慎重に見極める必要があります。
例えば、頻繁に求人を出している会社は離職率が高い可能性があります。休みが取りにくかったり、給料以上の仕事が求められたりするような状況が想定されるので気をつけましょう。
中小企業で平均給与よりも高い給料が提示されている求人の場合、みなし残業代が含まれていたり仕事内容が大変であったりする可能性があります。また人手不足により休みが取りにくい状況も考えられます。
トラックドライバーの給料の目安について知りたい方は以下の記事をご覧ください。
長距離トラックドライバーの給料は高い?平均年収・大手を選ぶべきか解説!
一方で、福利厚生が充実している大手の運送会社は、安定的に経営できていると思われます。業務もシステム化されていて仕事を進めやすく、人手不足に悩まされることも少ないと思われます。こうした企業の場合は、有給休暇を含めて休みは取りやすい傾向にあります。
大手の運送会社はコンプライアンスと企業イメージを重視する、いわゆるホワイト企業が多いため、法律や規定を遵守します。そのような点からも、中小企業と比較すると待遇を良くする傾向があるのです。
大手企業に入るのは簡単なことではないですが、トラックドライバーは条件に合った自動車運転免許があればチャレンジできる仕事です。休みが取りたいのであれば慎重に求人を見極めて、実際に職場も観察しつつ、より良い会社に就職できることを目指しましょう。
十分な休みがない長距離トラックドライバーはどんな対応をするべきか
短距離や中距離の配送は多少のトラブルがあったとしても大幅に仕事の時間は伸びませんが、長距離トラックの場合は移動距離が長い分どうしても拘束時間が長期化しがちです。
そのために長距離トラックドライバーは休みが取りずらい傾向があります。
運送業界の繁忙期は多忙を極め、休憩時間を削ってでも運搬しなくてはならない仕事が発注されることもあります。
運送会社としては、クライアントの仕事を必ず終えないとならない義務があります。そのような場合は仮眠程度の睡眠しかとれない状況もあり得るでしょう。
違法であることに慣れてしまっていませんか?
運送業者の事情によって、法律を守らないことは許されません。
しかし、従業員と企業との間に暗黙の了解がつくられ、従業員であるトラックドライバーにとって苦しい状況に陥りやすいことも事実です。
休息時間が8時間に満たない、休日が32時間に満たない、休日出勤が週に2回以上ある、有給休暇の申請が通らないといった場合は違法ですので、しかるべき対応策を取るべきでしょう。
対応策1:労働基準監督に相談する
そのような状況を変えたい、改善して仕事を続けたいと思ったら、労働基準監督に相談してみましょう。労働基準監督署は、労働基準法に基づいて企業を監督・指導する行政機関のことです。
労働者からの申告や相談により、その内容によっては企業への立ち入り調査や指導をしてくれる可能性があります。
ただし、個人の主張では緊急性のない場合は動いてくれない可能性もありますので、組合や部署単位で案件を集めてから相談する方がより効果的と思われます。
対応策2:転職活動を始めてみる
もめ事を起こしたくない、大ごとにしたくないと思う方は、転職することも考えてみましょう。
培ったドライブ技術や経験を力に、自分にとってより良い環境でトラックドライバーの再スタートできれば、休みを上手くとれるようになるかもしれません。
物流業界において、長距離トラックドライバーの仕事は大変重要な仕事です。安全に効率よく運搬するためにも、そのトラックのドライバーの健康は最優先事項と言えるでしょう。
長距離トラックドライバーとして、その責任をプレッシャーだけでなく、やりがいに繋げるためにも新たに定められた法律や規定を知り、無理をせずに適切な休みをとれるような仕事に就くことを目指しましょう。
しかし、労働基準法を遵守した優良な運送会社の探し方が分からない方も多いと思います。
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長距離トラックドライバーの休みについていただいた質問
レイズキャリアでは、長距離トラックドライバーという仕事に関する質問を受け付けております。その中から長距離トラックドライバーの休みについての質問と回答をご紹介させていただきます。
運転自体は好きなのでトラックドライバーの仕事は続けたいのですが、労働時間が長くて辛いです。トラックドライバーの労働条件は改善される可能性はありますか。
(20代男性)
今後トラックドライバーの労働条件が改善されるとは考えにくいでしょう。トラックドライバーの仕事は、物資を運ぶことによって収益を上げています。そのため、企業は収益を上げるために、労働者にできるだけ多くの労働時間を課そうとするという事情があります。
労働基準法の改善基準を大幅に超えた労働時間で働いていました。他の運送会社に転職することになったのですが、残業代を後から要求することはできますか。
(30代男性)
証拠を提示することで、残業代請求を行うことが可能です。内容証明郵便を送付、会社との交渉、労働審判の申し立て、訴訟の提起といった流れになります。自分で行う自信がない場合は、弁護士に手伝ってもらうとよいでしょう。
トラックドライバーの長時間労働はかなり常態化していて、社会問題になってもおかしくないと思います。国はなぜ動かないのですか。
(40代男性)
交通関連の法律が改正される際には、メディアが取り上げ世論の機運が高まり、政府が法律改正を検討する、という流れが生じます。メディアに取り上げられるような電車の脱線事故があった時、飲酒運転による悲惨な事故があった時は、いづれも法律を見直す機運が高まりました。何かしらのきっかけがないと、法律が改正されることは難しいかもしれません。
3ヶ月前に長距離トラックドライバーとして働き始めたのですが、労働時間の長さや休日の少なさに身体が堪えかねたのか先月体調を崩してしまいました。上司からは「このくらいで調子を崩しているようだとねぇ」と嫌味を言われたのですが、私は長距離トラックドライバーに向いていないのでしょうか。
(30代男性)
長距離トラックドライバーはあらゆるドライバー職の中でも、体力がいる仕事です。身体を壊してしまうと働き続けられないので、体力に自信がないのであれば向いていないとも言えるかもしれません。ドライバー職の中にも規則的な時間で働ける宅配ドライバーなどもありますから、転職を考えてみてもよいでしょう。